のりとはさみ

サッカーや本が好きな大学生の日記です。

7月2日 貸借

篠突く雨が朝から夕方まで降り続いた。けさは靴選びで難航した。雨の日に履くべき靴を持っていないことに気付き、泣く泣くスニーカーを選択した。靴下はやはり濡れてしまった。

そういう日は大学のキャンパスに行くのは億劫だからオンライン授業も悪くないと思うのだけど、実際キャンパスで授業を受けていると、わざわざ登校してよかったなという気になる。寂しがりなものだから、周りに学生がいると安心する。

 

授業前の教室でサークルの友人と本を貸借した。星新一『ようこそ地球さん』を借りて、小川哲『噓と正典』を貸した。最近、本を貸し借りする機会が何度かあって、その度に紙の書籍の素晴らしさをひしひしと感じる。

 

電子書籍のメリットはたくさんある。安い。ポイントバックが大きい。持ち運びしやすい。日焼けもなければ水に濡れて文字が滲むこともない。文中に登場する任意の単語や表現を簡単に検索することができる。書店に置いてない・出版社品切れの本でも電子書籍なら手に入る。

2021年現在、電子書籍を利用しないのはもったいないという声はじゅうぶんに理解できるものであり、真っ向から否定することができない。

 

ただ、だれかと貸し借りできるという1点をもってして私は紙の書籍のほうが電子書籍より好きだ。

おすすめしてくれた本のどこをそのひとは気に入っているのだろう、どうしてその本と出会ったのだろう、どうしてそのページに折り目がついているのだろう、そのひとは私が貸した本のどこを気に入ってくれるだろうとか考えているととても愉快な気分になる。次はどの本にしようか考えると止まらなくなる。

本を教え合うのはとても楽しい。文芸サークルに入ってよかった。

 

話は脱線するけれど、紙の書籍のメリットだっていくつもある。だからこそ特に文学や美術を愛する人々の多くが紙の書籍を蒐集する。

美しい単行本1冊が出版されるまでに、フォント、紙(1冊のうちに何種類もの紙が使われる)、インク、構成、など実に多くのこだわりが反映されている。外見や手触りの違いは、情報の集積物に過ぎないはずの本に「物品」としての価値を与える。だからこそ紙の書籍は美しい。毎日のように読まなくても、棚に積んでおくだけで私たちにご利益をもたらす本もこの世にはある(と私は思っている)。私が尊敬する職業第3位はブックデザイナー。1位は翻訳家で2位は文筆家。

 

でもやはり、本を通じて友人と交流する楽しさに勝るメリットは思いつかないのだ。帰ってきた私の本に私がつけたのとは違う傷がついているとき、何か嬉しくなる。

私はいつも慎重に読むから読んだ痕跡があまり残らない。だからこそ本に痕跡が残っているとき、いつ誰にどんな理由で貸したかを思い出して懐かしくなる。同じ情報を共有する、ただそれだけで二人の距離は縮まっていく。

残り短い大学生活のなかで、私はあと何冊の本を貸借することができるだろう。

 

夜、アルバイト先の友人に本を売った。私が気付かぬうちに2冊目を購入してしまった『日の名残り』(ほぼ新品)を400円で買い取っていただいた。素寒貧な私には大変ありがたい。

電子書籍は友人に売ることができない。やはり私は紙の書籍が好きです。